前編のあらまし
ある日突然、某市役所から「あんたの空き家が危険なので処分して下さい。」と通知が届き、あれこれ調べたら、どうも我々が法的に相続している家らしく、更に全然知らん奴が住み着いていて、結局解体する方向で親戚一同意見が一致した…(雑な振り返りだなぁ)
地主さんとの邂逅
この頃から伯母や従姉妹達の体調が悪くなったり色々高齢化から介護があったりで、とてもでは無いですが役所からの度重なる通知に対応する体力も無く、親戚一同疲労困憊のご様子でした。ですので私が更にバトンを受け取りこの後の決着まで突っ走る事にしました。
「よし、状況を整理しよう。」
- まず、役所の人に私が窓口になったと伝えよう。(他の親戚にはもう声をかけないでね…)
- あと、地主さんとも会って話してみよう!
- 地主さんと我々のタスクとリスクを整理しよう!!
- ついでにリスクヘッジも一緒に考えてもらおうっと!!!
あとは空き家を壊す際の業者交渉だよな。。
こんな感じで、直ぐに役所にお電話してみました。
市役所のご担当者様は誠実な方でした。ハキハキとして言いにくい事でもズバズバ仰って頂ける方でしたので返って話が早かったです。いわゆる"お役所仕事"な感じは無く、とても熱心に私の話にも耳を傾けて頂けました。そして今回の内容について一通り共有内容を互いに確認出来た段階で我々が危険空き家の解体を進めていく前提のお話を続けたところ、
「ところで、今、空き家取り壊すなら補助金出せるんですよー。」
との事。また、本件の申請にあたり準備すべき事項や注意点などあれこれアドバイスも頂けました。
ほぅほぅ、何と今月末まで延長なんですね。
家壊すのって何百万円もかかるし、50万円の補助金って何気にデカくないすか?しかしまたもギリギリのタイミングです。お電話したのが3月初旬なので、今から取り壊し完了まで1ヶ月足らずでやり切れるのかなぁ、、
(※注釈 : この補助金ですが、今期も延長になってるみたい。尚、補助金の有無等は自治体の方針や決定内容によります。2023.6現在)
「あのですねー、因みにこれ申請するのに相続人全員の同意書原本が必要ですよ。」
マジか?親戚ったって、何世帯もあります。取り急ぎ、壊す前提で先行して規定様式で書面作って送って返して貰わないと。。
続いて地主さんにアポを取り、某所でお会いする事にしました。
「どうもはじめまして、この度は…」
地主さんとようやく邂逅です。地主さんめっちゃダンディなお方です。また畏れ多くもご丁寧にご立派過ぎる経歴書までご提示頂けました。体調がすぐれないとの事でしたので手短な打ち合わせとなりましたが、差し当たって、お互いのこれまでの経緯のすり合わせをしつつ、
- 住んでいた方と我々親戚との関係は?
- 残置物の処理についてのリスクが無い裏付け確認
- 役割分担(ウチらが壊して残置物も処理、地主さんが整地)
などなど確認を行いました。1.は結局分かりませんでしたね。なんせこちらも曾祖父や祖父の兄弟筋の情報もなく、仮に遠い親戚だったカモしれない?、、、としておこうと思います。出てくる名前はどれも知らない人ばかりで、これがもし我々親戚に関係する話であるとするならば、まるでパラレルワールドの中の話のようです。
また、その後に"又借りしてた方"は既にお亡くなりとの事で、その二人いる"連子さんの一人"は離縁されていて、"もう一人"は何かの施設に入られていて出てこれず、更に生活保護者でもあるそうで、そもそも財産の類は無い方(主張出来ない方)になるとの事です。また、"又借りしていた方"には相方がいて、前述の"名前が二転三転した方"と同一人物で、その方は身寄りも無く数年前にこの家で孤独死されたとの事でした。
一方そもそも"又貸しをした方"も地主さんに多大な借金を抱えている為、地主さんの弁護士等通じて訴訟準備も受けているらしく、権利放棄についても既に認めておられるそうです。地主さんの意向で公的文書を取り交わす予定とも仰られておりました。
つまり、残置物の所有者であろう"又貸しをした方"も"又借りをした方"も"その連子達"も、またその又借りをした方の相方の"お名前二転三転の方"も、全ての方において残置物の所有権を主張できる者が居ないとのお話でした。
この点で2.についてのリスクは限りなく低いと判断し、3.の取り決めへと進める事にしました。
地主さんは噂話などにフラフラと飛びつくような方では無く、事実に基づいて調査をしている感じの実直な印象のある方でしたので、この話は信用できると思いました。地主さん本当にありがとうございました。
現地に行ってみよう!
地主さんと別れてから急いで現地まで向かう事にしました。新幹線と在来線を乗り繋ぎ、結構な距離を移動します。
のどかなところです…
午後になり、陽も傾き始めた頃、ようやくお目当ての空き家に到着しました。車で来ればよかった…駅からめっちゃ遠いのにタクシーが走っていません。仕方なく歩きで行く事にしました。
今回実際に空き家を見てみる事と、住んでいた方の情報を少しでも得たいという目的で向かいました。
こんにちは〜
表は鍵がかかっているし、ガレージっぽいところも板で塞がれている為、中に入れません。勝手口を探す為に裏に回る事にしました。
お勝手口、開いてるんですけどぉ、不用心だなぁ。。
お邪魔します。中は意外にも空気が澄んでいるようで、しっかりした造りの家です。埃っぽく無く思ったほど息苦しさはありませんでした。ただ、亡くなられた方が生活していたのがありありと分かる感じでした。
いつからあるゴミなんでしょうか?
その他、お仏壇に遺影もありましたが、もちろんどちら様か存じません。ただそのお顔が優しくて、恐らくはつましい生活ながらも一時はちゃんと家族団欒などされていたのだと勝手に想像してしまいました。後にGoogleストリートビューで数年分の画像も確認出来ましたが、春には花を夏には簾をと四季折々の生活感が伝わってきました。ごめんなさいね土足で上がっちゃって。まぁでも我々もこの家の所有者として上がらさせてもらう権利はあると思っておりますので。
間取りのイメージです、これ補助金申請に必要な書類ですが、実際に現地調査してなかったら書けないやつやん。
何かのご商売をされていたのでしょうか?電話帳にお取引先さんやらの名前が記載されておりましたが、残念ながらこちらも一人として知った名前はありませんでした。
結局、"こちらの住人"と我々との関係性については分からず終いでした。
家の取り壊しと残置物処分費用の算出
現地から戻り、解体業者との折衝を始めました。従姉妹がいくつか見積もりを取っておいてくれたので、そのうちの一社に最終的に決めて交渉する事にしました。ここでのポイントは、
- そもそも年度末までに解体を終わらせて補助金の完了報告の提出に間に合わせられるか?
- 少しでもまけてくれんかのぉ?(涙)
という事で、いざお電話を。
「もしもーし、かくかくしかじかで以前お見積り依頼の…」
すると解体業者さんが、これまた熱い感じの良い方で、事情をすぐにご理解下さり、
「うーん、そいつはヤバいっすね。本当に間に合わなそうなのでギリギリなんですけど、何とかやってみます!」
「ありがとうございます!あのーついでと言っては何ですが、春のキャンペーン的にどーんとお値引きを…」
「わっかりましたー、解体の方は10%引きます!」
えっマジ?やったー。ありがとうございます!!
「(残置物の処分は対象外っすよ…あ、了解っす)」
とは言え200万超え
まず何と言っても年度内の急な工事を引き受けてくださった事に感謝です。そしてお値引きまでして頂きありがとうございました。
あとは雨などの天候不順で工期が延びたりしませんように。
補助金申請から交付決定通知まで
市役所ホームページから申請様式をダウンロードして、申請書の記載を開始しました。同時にお願いしておりました親戚一同や地主さんの同意書も届き、各種図面やら何やらの用意をしつつ、ようやく申請書類一式が完成しました!
よっしゃー、申請書できたどー
内容はと言うと主だったものだけでもこれだけあります。
- 交付申請書
- 収支予算書
- 案内図
- 配置図(除却対象物)
- 平面図
- 施工前の写真
- 業者見積書
- 空き家を証明する書類
- 建築年次が確認できる書類の写し
- 建物・土地登記簿謄本(3カ月以内発行)
- 全ての権利者の同意書
- 土地の所有者の同意書
- 誓約書
- 市税完納証明書(3カ月以内発行)
- 所有者の承諾書
などなど、まー沢山の書類だこと。このあと、交付決定通知が出たら工事開始です。また、今回は対象の物件が床面積80平米以上の為、"建設リサイクル法"に則って工事の1週間前に届出も必要になります。
速攻で交付決定通知ゲッツ!
市役所の方も迅速対応くださり、審査も早く、すぐに交付決定頂きました。
工事開始から完了報告提出、確定通知受領まで
再び某地へ。前回の教訓から今回はマイカーで高速道路を走らせて向かいます。
おー、工事進んどるねぇ、ご苦労様です!
残置物の処理はかなり進んでいて、お家も一部の壁を残して急ピッチに解体が進んでいるのが分かりました。
これなら、月末に間に合いそうです。
工事完了後には、完了報告書(更地の写真やその他完了した証、リサイクルのマニュフェスト提出など)が義務付けられており、全て月末迄に完了しないと補助金は支払われません。1日も無駄には出来ない工期日程の中、雨混じりの日も業者さんには動いて頂き、遂に工事は完了しました!!
いよいよ更地に…※写真は解体屋さんご提供
皆様の迅速なご対応のおかげで完了報告書を提出でき、また無事補助金の確定通知を頂く事が出来ました。皆様本当にありがとうございました❗️
確定通知!これで来月には支払われます
ざっとスケジュールを振り返るとこのような感じになりました。
◾️スケジュール振り返り
12月頭 役所から手紙が届く
1月 従姉妹が登記確認と解体屋へ見積依頼
2月 両親が地主さんとメールやり取り
2月末 実家で空き家の事実を知る
3月頭 弁護士のお友達と飲む
3月1週目 市役所、地主さん、解体屋に連絡
3月2週目 地主さんと面会、現地視察
同意書集め、申請手続、交付決定通知
リサイクル届出(解体屋さんより)
3月3週目 工事開始、工事視察、近隣挨拶
3月末 工事完了、完了報告、確定通知
4月末 補助金の入金
やば、特に3月。
最後に登記の滅失
建物登記を滅失を申請するには現地の法務局に行って、1ヶ月以内の申請が義務付けられています。その為時間も無い中、確実に遂行する為にもここはもうプロに頼む事にしました。いわゆる土地家屋調査士さんにです。
解体屋さんに紹介頂いた方でしたが、柔和な感じが取っ付きやすく、また素晴らしく気前の良い方で、えらい値引きまでしてくれました。
業者依頼38,000円ナリ
5万は覚悟していたので、嬉しい誤算です。
現地の近隣住民の方のお話を伺って
因みに2回目の現地入りの際に、近隣住民の方とお話をする機会を得ました。その方はとても気さくで面倒見も良さそうで、たまに屈託のない笑いを交えるあたり初見でもスゥ〜とお近付きになれるタイプの方でした。
まず、どう言う経緯であれ、我々所有の空き家が近隣に迷惑な存在だった事実に対して真摯に向き合っている事をお伝えしたかったです。そして次に、祖父と同じ姓を名乗る人物の末裔とは誰なのか?を知るきっかけを得たいと思っていました。
「こんにちはー、相続人の家族の者です。ここにはどんな方が住まわれていたのですか?」
すると、意外にも興味深い答えがそこにありました。
住民の方によるとこうです。(聞き間違え等ありましたらすみません。聞きかじった話の為、真偽を確認した話では無い旨ご了承下さい。)
ご年配のその方が未だ小学生だった頃、あるとても貧しい親子がその家に住んでいたそうです。お父さんは、地元でも砂利運搬か何かで一目置かれる存在だったようですが、若くして亡くなられたそうです。その奥様とお子さん達兄弟姉妹とで暮らしていたそうです。その頃その家は「ある和菓子」の名前で呼ばれていたそうなので、そのような生業をされていたのかも知れません。
その後、兄弟達も大きくなり、その内の一人と知人関係にあった方へこの家を"又貸し"する事で、この家を出て行かれたそうです。"又借り"した知人は連子の母で、その内縁の夫というのが、"お名前二転三転男"との事らしいです。お名前二転三転男さんは、借金取りから逃げるたびにお名前を変えていたそうです。尚、とても器用な方だったそうで農業機械や車等のリサイクルを生業とされていたとの事。部品等の収集の為か、いつの間にか家がゴミの山と化してしまったようです。
単なる予想図、根拠無しの家系図です。
そして、「こちらの近隣住人」と「貧しい兄弟」と「お名前二転三転男」は、どうも小学生の頃からの交友関係のように聞き取れました。
皆んな同じ地元仲間だったのかな!?貧しい兄弟の若くして亡くなったというお父さんって、ひょっとして、おじいちゃんの兄弟か何か?
ただ、このお父さんの名前が分からず「砂利運搬一目置かれ男」としか分かりませんでした。
エピローグ
貧困などから第三者目線では決して幸せとは言えない方々の生活を2世代に渡って守り続けた「空き家」。最後は危険空き家に認定されてしまい、私達の手で葬る(解体してあげる)事が出来たと思います。
何だかおじいちゃんがこうなる事を分かってて、この家を通じ、福の分け合いをしてたのかな?なんてちょっぴり思いつつ、200万円払って特等席でその映画のようなストーリーを観させて頂いた気持ちになりました。
ただ、又貸し男さん、やっぱり住んでいたケリはつけるべきだったと思います。地主さんや我々の為にも何らかの誠意を見せるべきでした。もしも遠い親戚であれば、その関係性も明らかにしたいし、尚更に胸の内など明かして欲しかったりもします。
最後にかかった費用などお知らせします。
◾️精算書
採用業者2,238,500円(競合見積2,640,000円)
値引 ▲126,500円
支払 2,112,000円 ※解体屋への支払
補助金 ▲500,000円
負担額 1,612,000円
滅失申請 38,000円 ※土地家屋調査士への支払
最終負担1,650,000円 ※親戚で分割負担しました
コストも結構かかりましたが、無事終わりました。
また、新たな"空き家"が現れたらどうしよう…そんな不安がよぎる中、従姉妹から、
「それは無いと思う。役所にもそういった登記がない事も確認済みだから。」
との事。取り敢えずホッとしました。
今回のケースはレアケースかもしれませんが、あり得なくもない話だとも思います。この話が、空き家問題を抱えている方の参考になれば幸いです。