日本の空き家問題…なんとなく聞いていた話ですが、都心郊外のマンションに住む自分には無縁の話だと思っていました。
ところが、ある日突然にその問題が家族に降りかかりました。登場人物は誰で、何が問題なのか?どうしなければならないか??行政や法律の判断は何なのか???全く何も分からないまま、ただただ処分しなければならない"危険空き家"の所有者となってしまい…
空き家のイメージ
途方に暮れた末に色々な方々との出会いあり、協力あり、前向きに空き家問題に取り組み、そして、何とかフィナーレを迎える事が出来ましたので記録としてまとめる事にしました。
関係する方々も多く、特定できる内容は伏せさせて頂きます。またこの記録は素人の私がまとめた内容の為、間違いがあるかも知れませんが、同様の問題で悩んでいる方の参考になれば幸いです。
プロローグ〜空き家問題の現実〜
10年くらい前の資料のようですが、、
○住宅・土地統計調査(総務省)によれば、空き家の総数は、この20年で1.8倍(448万戸→820万戸)に増加。
○ 空き家の種類別の内訳では、「賃貸用又は売却用の住宅」等を除いた、「その他の住宅」(いわゆる「その他空き家」)がこの20年で2.1倍(149万戸→318万戸)に増加。
○ なお、「その他の住宅」(318万戸)のうち、「一戸建(木造)」(220万戸)が最も多い。国土交通省 : 空き家数の推移と種類別内訳 抜粋
国土交通省の資料によると、空き家は増加の一途を辿っています。"誰か"が住んでいた家も、やがて「空き家」となり、風化と共に「危険空き家」の指定となり、2015年5月に施行された「空き家等対策特別措置法」にて「特定空き家」にまで進んでしまうと行政代執行(どうにもアカンヤツなので行政が代わりに処分しますという事)の対象となり得えてしまいます。
仮に代執行されてしまうと、その所有者(自覚ある無しに関わらず建物登記に記名のある者もしくはその相続人)は、その空き家に縁もゆかりも無かったとしても大変な額の請求を行政から受ける事となります。
因みに、「だったらそんな家の相続を放棄したらエエやん…」って話にもなろうかとは思いますが、建物登記の相続放棄をしたとしても次の管理者が現れない限り「建物の管理責任」からは逃れられず行政から責任追及を受け続ける事となるようです。
更に危険空き家の放置は、多くの方へ迷惑をかけかねない状況にあり、倒壊して誰かが怪我をする等の二次災害が起きた際には責任を取らなければならない可能性もあります。
正に放置すればするほど危険な問題で、不幸の手紙のように誰かさんにバトンタッチし続ける限り永遠に終わらず、自ら終止符を打つゴールを決めないと終わらないサドンデスのようなものなんです。
今回のケースでは、ギリギリ「危険空き家」の段階で行政の手助けを得ながら更地にして「建物登記の滅失」に成功する事が出来ましたので、泥仕合とならずラッキーな方でした。
一通の手紙から全てが始まり…
それは、まだ私の耳に入ってくる3ヶ月前の事、師走の慌ただしい折、実家ではちょっとした異変が起きていたようです。某市役所から何とも信じがたいような通知が届いていました。
何かの詐欺通知かと思いました。
それは、相続人に親の名前が書いてあり、どうも
「相続したあなたの家が大変危険な空き家になって近隣に迷惑をかけているので何とかしなさい!」
という内容でした。
相続?家?実家もマンション暮らしの両親にそんな隠し(負の)財産があったなんて話は一切知りません。。そもそも某市って何か縁ありましたっけ??
時を同じくして、親戚にも同様の通知が届いていたようです。一体誰の家なんでしょうか?
被相続人として祖父の名前が確かに記入されていましたが、祖父は昭和に亡くなり祖母も平成に亡くなり、一度だってそのような家の話が親戚間で出た事はありません。一同困惑し、当初は「お宅も通知来た?」「何なんでしょうねアレ?」程度の会話がなされていた模様です。
実は地主さんも大困りでした
一方、この問題の建物登記の土地は祖父とは無関係の別の地主さんの物でした。地主サイドでは、かなり前から該当の空き家の処分の事で困り果てていた実態があったようです。
地主さんのイメージ
当時、この家は誰のものなのか?も分からないまま"人様の家"を勝手に壊すことも出来ず状態だったようです。
「土地登記は地主さん、建物登記はおじいちゃん、、そして互いが互いの存在を知らない…」
うーん、コレって詰んで無い?
地主さんはとてもお忙しい方で、なかなか本件に取り組めない時期もあったそうです。
また近隣にお住まいの方々からすれば、この危険な空き家の存在をどうにかして欲しいと地主さんに訴えていた訳ですが、当初は誰の所有の家なのかも分からない空き家だった訳ですから地主さんもお手上げ状態のようでした。
そして昨年末に転機が訪れます。地主さんはこの一帯の大地主様の様で、境界測量などをしていたそうですが、その際、遂に私の祖父が建物登記人であるという事実にたどり着いたそうです。
最初に従姉妹が動きました
「コレって放置しちゃダメなやつよね。。」
困った従姉妹…
親戚に届きまくっていた市役所の通知に最初に反応したのが従姉妹でした。法務局で建物登記を取り寄せ、確かに我々の"おじいちゃん"が建物登記人になっている事を確認しました。
ただこれだけでは「古い建物且つ区画が古い状態の表示」の為、登記から読み取れる情報だけでは何とも判断付かない状況です。そもそも該当の現地建物と登記上の建物とがイコールであるかは断言できません。。
ここで役所の方からアドバイスが入り「名寄帳兼課税台帳などから固定資産税等の課税状況を確認してみるとの事でした。
後日役所からの資料で、現在固定資産税は0円で滞納なども無い事が分かり、そして該当空き家がおじいちゃん名義である事もほぼ断定できました。
でも、、あれ?おじいちゃんってこの土地に住んで無かったよね??
そういえば、おじいちゃんの兄弟の家系図って知らないよね。。
そもそも誰が住んでいた家なのか?
問題の空き家がおじいちゃん名義であった事実にも驚きですが、そもそも見知らぬ人がおじいちゃん名義の家に何十年と住みついた挙句に捨て去っていった事実の方が驚愕です。
まず、その疑問に目を向けたのは地主さんでした。近隣の住民の情報を得つつ、何となく見当を付けられており、その"住人"と私の祖父とが親戚縁者であろうという仮説を立てておりました。
実はこの結論は未だについておらず、がしかし、ただ一つ言える事は、最後に住んでおられた方は完全に赤の他人だったという事です。
地主さんの情報によると祖父と同じ姓を持つどなた様かの末裔の方がお住まいになられた時期があったようです。当時地主さんに地代をちゃんと支払っていたそうなのですが、やがてまた別の誰かさんに又貸しして、そ奴から賃料までせしめつつも、その頃から地代を滞納するようになっていったそうです。(ダメな奴や…)
そして、"そ奴"というのが、名前が二転三転している人で何年もそこに住みつつも本名の真偽も不明のまま数年前に亡くなられたそうです。
どーゆーこと?誰??
まず、私の祖父は、祖母と出会う前に学生時代より上京して就職しています。その後仕事の関係で該当の地とはまた別の地方に移り住み、そして現在の都心近郊の家に私の生まれる前から住んでいます。小さい頃よく遊びに行った懐かしい立派な家です。
しかし、この空き家は都心から数百キロも離れた地です。祖父の故郷である事は間違いなさそうなのですが、住んでいない家の登記人にどうしてなったのだろうか?また誰のための家だったのか?住んでいた方は何を考えて他人名義の家に何十年も住んでいたのか?疑問は深まるばかりです。
両親にバトンタッチ
おじいちゃんと無縁っぽい人が住んで、そして捨て去った家の後始末だけウチらがやるの?おじいちゃんが建物登記人ってだけで?そもそも仮に建物を処分したとしてもそこにある見知らぬ方の私物(残置物)をウチらが勝手に処分しちゃっても良い訳?
これが親戚間でも問題解決を進める上で最もハードルの高い難問でした。
「ましてや最後に住んでいた人の名前が二転三転しているって…8,9,3屋さんか何かかしら💦」
「やっぱりコレって新手の詐欺か何かじゃ無い?」
憶測が止まりません。多忙な従姉妹に変わり、私の両親がこの問題を引き継いだまでは良かったのですが、ここで難問の数々にぶち当たり前に進めない状況が続いてしまいました。そして、取り急ぎ地主さんがお困りであろうという事から、父が市役所を介して地主さんの連絡先を教えてもらい、メールでのやり取りを開始しました。そして、ここでようやく
- 地主さんのお困り事
- 住んでいた人の概要
- 我々がやるべき事
が朧げながらに見えてきた感じです。
で、そんな折も折、呑気に実家に立ち寄った私が問題勃発から3ヶ月後にこの事実を知る事になるのです。
弁護士の友達に聞いてみた
両親が、「ご飯食べていく?」くらいの物のついで感覚で曖昧にこの話を切り出した時、「あ、私を巻き込みたく無い事で何か隠してるな?」って直感しました。で、根掘り葉掘り聞き出したのが前述の内容です。
「んー、プロに聞こう…」
という事で、まず弁護士をやっているという学生時代の友人に聞いてみる事にしました。
お友達〜久しぶりっす!
「おぅ久しぶり!ついでに会って呑もうぜ!」
持つべきものは友よ。感謝。
聞いてみると、やっぱり
「それ詰んでる系の話だよ。役所から全親戚相手に逃さない感あるしね、、的を絞った方がいいよ。」
彼が言うにはざっくり、
- 建物登記人及びその相続人は、家の管理責任がある
- 仮に相続放棄しても次の相続人が的になる
- 管理者を誰かに引き継がない限り家の管理責任は相続人の皆んなに残る(民法第940条)
- 当初住んでいて又貸しした奴が(その空き家を)時効取得(10年経ったら俺のモノ的な?)でもしてくれない限り相続人の家のまま
- 既に居なくなった"元住人"に退去命令すらできない状況だから本当は行政に委ねたいが跳ね返されるだろう
- 又借りしてた奴の残置物は、お前(私)の親が勝手に処分できない
- 特定空き家になったら行政代執行で親戚の誰かが高額請求の責任負うよ
行政は何十年も実際に住んでいた人間では無く、権利のある相続人に責任追及するから、結局は住んでいた奴は「逃げ得」で、お前(私)の親か親戚の誰かが責任を負うしかないよ…って事らしいです。
また残置物の処分をしなければ物理的に更地に出来ないが、更地にしない限り登記を滅失できず、いつまでも空き家のオーナーであり続けてしまう為、残置物処分の理由固めも必要だそう。。
残置物っす、、ギャー!?なんじゃこのゴミの山は〜やまは〜ヤマは〜(以下エコー…)
キツい。実にキツい現実。
特定空き家にして貰って行政代執行で空き家を処分すれば、残置物も行政が勝手に処分したって事になるけれど、今度は行政相手に親戚の誰かが喧嘩するしかなくなるね…だそうです。
既に相続を放棄している親戚限定で、追加財産の"この空き家"の件で「相続放棄の申述書」を出して、本件の責任から外す事くらいは出来るとの事ですが、、
「あ、でもそれってこの事を知ってから3ヶ月以内に提出が必要だけれど、お前(私)の親いつ知ったの?」
「ちょうど3ヶ月前…です、、」
相続放棄の申述書は家裁に提出です。。しかも逆算したら今日が締め切り日という偶然。
結局、誰も相続放棄せず、元々おじいちゃんの家を相続した親戚と共に他の親戚も同調し、おじいちゃんの登記滅失の達成の為に動く事を一同誓うのでありました。
後編に続く…