山小屋のトイレの中でもテント場のトイレは汚く臭うという印象をどうにも払拭できません。。
同じような声が寄せられているのか、現在北アルプスの各小屋でテント場のトイレを綺麗に新しくする動きがあるようです。今回はその中の一つである常念小屋にお伺いして参りました。
常念乗越に位置する常念小屋は、槍穂の眺望が素晴らしいです。
◾️常念小屋までのルート
9/18(土) 10:00 一ノ沢 出発
15:00 常念小屋 到着
9/19(日) 8:00 常念小屋 出発
11:30 一ノ沢 到着
今回は一ノ沢と常念乗越のピストンになります。初日は台風の影響で出発を遅らせたのが正解で、風もなく小雨程度で済みました。
翌日は素晴らしい天気となりました。秋の訪れを感じます
水が豊富です
沢を縫うような登山道
三連休の為、中日の日曜日は多くの方が登ってこられました。
北アルプスのテント場のトイレを改修する動き
テント場トイレの新設の仕方は小屋それぞれのやり方があるようです。先日、燕山荘のテント場トイレも大掛かりな工事にて新しくする話を聞いたばかりでした。
ここ常念小屋でも今年テント場のトイレを新設されたようです。
新設のテント場トイレ①
使用頻度や季節的な事もあるでしょうが、驚くほどに臭いません!
新設のテント場トイレ②
清潔な個室…2穴方式で「前方の穴」に"小"を「後方の穴」に"大"を。
新設のテント場トイレ③
男性用小便器
新設のテント場トイレ④
トイレ背面の様子
トイレはし尿の処理もあり、その維持には思った以上にコストと労力がかかるものと思われます。
各所の山小屋でのトイレとの戦い…
一般的に山小屋トイレのし尿処理について、昔は地下浸透方式が採用されてきたと思います。
その後は環境省の後押しもあってかバイオトイレの導入が一般化しました。トイレの便槽自体にバイオを仕込んだり、トイレ便槽とバイオ槽をホースにつないでポンプで送るなど、様々な方法が取られたようです。しかし比較的良く聞く声としては、
- バイオの温度や換気の管理(電源の問題)
- し尿の程度が一般化しない(水っぽいor固着)
- 混入された異物の取り除き作業
- バイオ槽へのし尿の移動作業
- バイオの処理能力
- 設備や修理が高額!?
- 大規模設備は数年に一度の高額メンテ!?
など、一長一短の側面はあると思います。バイオトイレの素晴らしい側面とそれを維持するための苦労とのバランスの上に、我々登山者は気兼ねなくトイレを利用できているのですね。
元テント場トイレ
現在は閉鎖中のようです
なのでトイレ利用のマナーは守りたいですね。少し大袈裟ですが、自分の出した"物"の最終処理工程をイメージして、その過程での努力に敬意を払って、トイレを利用したいものです。
登山者のトイレマナーについて考える
テント場トイレの利用は、テント泊の方にだけ開放されている訳ではありません。縦走中に通過する方も利用します。小屋の中のトイレとの最大の違いは、この外来利用にあると思っています。
使用料1回100円は良心過ぎ!
この料金箱はどこのテント場トイレや外トイレでも一般的な方式です。ただ、システム的に「外来利用者がお金を入れてくれない…」という事がありそうです。トイレを我慢している時って、ついついお財布を出すのが面倒に思える時もあると思います。ただその場合も出た後にでもしっかりお金を入れなければですね。
元テント場トイレも同じく料金箱方式でした
トイレ維持は前述の通りお金がかかります。
- 清掃メンテナンスの人件費
- ペーパー備品補充、バイオ・薬剤購入費
- 電気、暖房、ポンプ、ホースの維持管理費
- 物資運搬のヘリ代(年々高騰)
- 故障時の対応、修理費
- その他苦情対応などなど
私が考えるだけでもこれだけあります。特に山小屋は高所に位置しますので、大掛かりな工事をするとなると地上の何倍にも費用が嵩みます。
一般的に大規模なトイレ新設にかかる費用は数千万円にも及ぶ事もあるそうです。
コロナ禍ともなれば収容人数も半減し、収益悪化は免れません。
コロナ対策が徹底された小屋の室内
そのような背景を考えても、外来利用者は使用料1回100円が妥当なのか、検討をしても良いのかもしれません。
また、利用のマナーの課題もあります。よく張り紙にある
「トイレットペーパーは箱に入れてください。便器には入れないでください。」
というのを登山者であれば誰もが目にしていると思います。正直私も次の人にワタシの"大"が見られちゃいや〜ん…みたいな理由で紙を入れてしまいたくなる時もあります。ただ、し尿をもしポンプで汲み取るようであれば、紙は恐らく詰まって故障する原因になると思います。
尚、トイレには尿と糞便以外に様々な物が入り込むそうです。
- トイレットペーパー、ティッシュ
- 生理用品
- 残飯、ゴミ
- 落とし物
- ウジ虫(これは利用者のせいでは無いですが…)
コンポスト化でSDGsを目指せるか?
このように山小屋のトイレでは中々純粋に"し尿"だけを集める事は出来ない事情がありそうです。また清掃でサンポールなどの薬品を使用するのであれば、し尿のみをコンポストで土壌化する事には課題が出ます。
今回同行のトイレ社長オススメの「ミミズによるコンポスト」が一番自然に優しい気がしますが、ミミズに食べてもらえるよう異物をどうにかしていくという課題の解決にはまだまだ時間を要すると思われます。
麓には「ミミズコンポスト」に使えるシマミミズも豊富にいます。
美しい常念岳
常念岳は、私が登山デビューしてから初めて登ったアルプスの山になります。1989年に正に同じコースで一ノ沢から常念乗越まで上がりました。
斜度の上がる胸突八丁
当時はテント泊の為30kgを超える荷物を背負い胸突八丁の急坂で絶望したのを覚えています。
常念乗越から常念岳方面を仰ぐも山頂は偽ピークに阻まれ見えません
デカい山容が圧巻。またピラミダルなその形はとても美しいと思います。そして眼前の槍ヶ岳のモルゲンロートも見所です。
その後1994年に三股から前常念岳を経てトラバース道を抜けて常念乗越まで行きました。このトラバース道はその後整備不良の為に通行禁止となりました。ただ、昨年2020年に20年振りに再開通したようです。(登山道整備も無茶苦茶に大変な事と思います…ありがとうございます。)
1996年には同じく三股から蝶ヶ岳を経て常念岳へ。そして2018年、常念岳から燕岳へ縦走するのに再び一ノ沢から登りました。(2018年夏山は常念岳、大天井岳〜燕岳へ - ワンゲル部の記録長さん)
松本市方面、ご来光と雲海
常念岳は今回でまだまだ5度目ですが、自分的には思い出深い北アルプスの山になります。眺望最高で使いやすいテント場
改めて常念乗越の常念小屋
常念乗越は北アルプス縦走の要所になります。そこにある常念小屋で快適にトイレを利用できるという事は、様々な関係者による支えの上に成り立っているという事ですよね。あとは、行政や地元企業らの応援や協力を得た持続可能なスキームが出来れば、小屋や登山者だけに負荷を強いるのではなく幾分かこの苦労を分散化できるのではないかと勝手に思ったりします。
今後どこかの山小屋で、前述のミミズによるコンポストがその救世主となり得たりするのでしょうか?各小屋トイレのこれからの動きに目が離せません。