ワンゲル部の記録長さん

山ですぐバテちゃう記録長さんの日記

北アルプス裏銀座「烏帽子小屋」「野口五郎小屋」のトイレ視察に同行する

毎年、携帯トイレ会社の社長と山岳トイレにおける環境保全を目的とした登山の同行をしておりますが、今回は北アルプス裏銀座の烏帽子小屋と野口五郎小屋に行ってきました。

f:id:uccari8:20190809082838j:imageイワギキョウの花畑が綺麗な烏帽子小屋

f:id:uccari8:20190809082943j:image標高2,870mの高所にある野口五郎小屋

両山小屋ともとてもアットホームな雰囲気で温かく迎え入れてくれました。いつも感じる事ですが、山での素晴らしい方々との出会いは何物にも変えがたいと思います。

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◾︎今回のコース

8月3日(土)

17:00 七倉山荘 → 18:00 名無避難小屋(視察)

8月4日(日)

  6:30 七倉山荘 → 7:00 ブナ立尾根取付 → 12:00 烏帽子小屋(昼飯&トイレ視察) 13:00 出発 → 16:30 野口五郎小屋

8月5日(月)

  6:00 野口五郎岳ピストン → 7:00 野口五郎小屋(トイレ視察) → 7:30 出発 → 10:00 烏帽子小屋(昼飯) → 13:00 高瀬ダム

 

名無避難小屋を視察する

初日は夕方に到着し時間が無かったので、七倉山荘から東京電力の管理する道路を経由し、高瀬ダムから徒歩1時間15分ほどの名無避難小屋まで行ってみる事にしました。

f:id:uccari8:20190810153430j:image川沿いのほぼ平坦な道を行きます。
f:id:uccari8:20190810153422j:image名無避難小屋が現れました。
f:id:uccari8:20190810153426j:imageここにトイレはありません。小屋の裏手に携帯トイレブースなどあれば便利かも。こちらのトイレ視察の目的は、ここがトイレ拠点として有効か?という確認になります。通常は高瀬ダムから徒歩約3時間で晴嵐荘に通ずる道の中間地点にある小屋になりますので、単純にこのあたりにトイレが一箇所でもあると便利かなと思いました。これからじっくり調査していきたいと思います。

翌日いよいよブナ立尾根を行く

今回のメインは烏帽子小屋、野口五郎小屋のトイレ視察になります。

登山用語で「きじ撃ち」「お花摘み」とは、フィールドでトイレの「大」の方をしちゃう事を指しますが、この度新たに「お花撒き」という言葉を知りました。これは小屋閉めの際に行う便槽のお掃除(バキュームカーが来るわけで無いので人力で外に出す作業)を指すとの事。

想像を絶する重労働かと思われますが経験が無い私にはそれを語る資格はありません。。ただ、それが少しでも軽減できる方法を一緒に講じ、効果を実体験を伴って実感できればと思いました。(なのでシーズンオフに再訪したいと思います。)

というわけで何はともあれ、小屋に行ってみようという事で北アルプス三代急登に数えられるブナ立尾根を登り両小屋を訪れる事にしました。

f:id:uccari8:20190814231224j:image当日は晴天に恵まれました。トンネルを抜け不動沢の吊り橋付近から舗装も終わり本格的な登山開始です。
f:id:uccari8:20190814231210j:imageこの日、ヘリの荷揚げを行なっていました。今年はヘリによる小屋への物資運搬について色々困難な事情があったとの事で、だいぶ大変な思いをした小屋も多かったと思います。登山者の便利と安全のかげには関係者による苦労がある事を知らされます。
f:id:uccari8:20190814231244j:imageブナ立尾根はとても登りやすいと思います。燕岳の合戦尾根、劒岳の早月尾根と並ぶ急登との事ですが、写真のように0から12まで番号が振ってあり目安がしっかりとしています。
f:id:uccari8:20190814231229j:imageブナをはじめとした緑の木々が美しいですね。
f:id:uccari8:20190814231147j:imageこの山域は花崗岩主体の山にて非常に脆く崩れた箇所がいくつかあります。花崗岩の崩れた砂礫は土とは違い、フィールドにおける「し尿」の分解にはあまり適さない地質かと思われます。
f:id:uccari8:20190814231157j:image天然のブルーベリーです。美味しそうです。

ガイドさんの的確なアドバイスもあり、疲れる事なく烏帽子小屋に到着しました。

烏帽子小屋のトイレを視察する

烏帽子小屋に到着すると、とてもお人柄が良いオーナーとスタッフの皆さんに出迎えられました。
f:id:uccari8:20190814231233j:imageさっそく室内トイレ拝見です。ここはEM菌による「し尿」分解を促進するタイプのトイレです。隣に更衣室もあり、トイレついでの着替えなどにも対応し設備も整っている印象です。

f:id:uccari8:20190814231138j:image続いて屋外のトイレです。今回特にこちらのトイレについて前述した「お花撒き」を含め、重労働の軽減と環境保全の両立が出来ないか検証です。

具体的な内容についてはこれから詰めていく事になると思われますが、同行した携帯トイレ会社の社長によると同社の仮設タイプのトイレが転用できないか?との事です。

こんな資料がありましたのでご紹介します。

ご参考 : 仮設トイレシステム『Mt.Fuji Toilet』試験報告書付き エクセルシア | イプロスものづくり

  • 電気、水道無し、耐久があり手軽に建設
  • 大腸菌などの繁殖を抑え悪臭の防止
  • し尿の安全で楽な回収方法
  • し尿処理後物の環境配慮な最終処理

この辺りがポイントとなりそうです。烏帽子小屋にはミニ焼却炉があるので、最終処理が焼却であればヘリによる荷下ろし分も減ることに繋がりそうです。課題もありそうですが、オーナーやスタッフの皆さん、ひいては登山客の皆さんにとって快適になればチャレンジする価値はありそうだと実感しました。

野口五郎小屋に向け再出発

ブナ立尾根をだいぶゆとりを持って登ったので、元気のある内にそのまま稜線を野口五郎小屋に向け出発しました。

f:id:uccari8:20190814231316j:imageコマクサです。砂礫に可憐に咲く高山植物の女王です。地元の話によるとだいぶコマクサの株数も増えてきたものの、まだまだ登山客の登山道の踏み外しによる踏み荒らしや写真撮影の為のコース外歩行が一因となり痛んでしまう高山植物も少なくないとの事です。私もつい無意識にコースを外れてしまう事があり注意が必要です、、
f:id:uccari8:20190814231254j:image三ッ岳を過ぎた辺りで高瀬ダムに流れ込む西沢の上流域を見下ろすと300mほど先にツキノワグマがいました。ここは目撃ポイントの一つのようです。熊は難聴だが、嗅覚は犬以上らしいですね。風上に自分が居れば自然と相手の熊にもニオイで人間の存在を知らせる事になるだろうとの事でした。
f:id:uccari8:20190814231200j:imageそうこうしているうちに空がゴロゴロ鳴りだし、滑り込みセーフで野口五郎小屋に到着しました。
f:id:uccari8:20190814231306j:image今日は疲れたのでもうオフモードに入ります。
f:id:uccari8:20190814231249j:image野口五郎小屋のオーナー、スタッフの皆さんもとてもとてもお人柄が良く、本当に温かく迎えて下さいました。夜は少しお酒を頂きました。岩魚の骨酒など贅沢なお酒が振舞われました。うまーい。

すっかりご馳走になり夜も更けていきました。
f:id:uccari8:20190814231216j:image翌朝も快晴です。
f:id:uccari8:20190814231153j:image朝日が昇ってから野口五郎岳を往復してきました。槍ヶ岳の眺望が素晴らしい!

野口五郎小屋のトイレを視察する

小屋に戻り、昨日疲れて出来なかった屋外トイレの視察をしました。
f:id:uccari8:20190814231221j:image因みに野口五郎小屋のトイレエピソードを伺ったところ、室内トイレは臭いが客室や食堂に入らないよう数回にわたり場所変更やトイレエントランス設置などによる改修を行い工夫してきたとの事。登山ブームだった昭和の頃にはピーク時に1日80人を超える登山客を宿泊させていたそうで、トイレの課題との格闘はその頃からだったそうです。
f:id:uccari8:20190814231257j:imageそして屋外トイレの様子です。正直思ったほどの臭いはしませんでした。ここもEM菌利用なので気候条件次第では効果発揮できているのかと思います。今回、携帯トイレ会社の製品である前述しました「Mt.Fuji トイレ方式」の薬剤も試されていましたが、更に臭いが気にならなくなったようです。(私の感覚値で恐縮ですが)

しかし、こちらも烏帽子小屋の屋外トイレ同様、便器の下に便槽があり、シーズンが終わるとともに「お花撒き」は必要です。なので、その作業負荷軽減は不可欠に思えます。

普段何気なく利用する小屋のトイレですが、メンテナンスは必須です。そこに携わる方々の苦労の上に快適な登山生活があるのであれば、せめてその事実を理解してトイレを利用したいものです。
f:id:uccari8:20190814231302j:image今回は野口五郎小屋のピストンコースになるため、同じ道を戻りました。帰りは下り基調の為、あっという間に烏帽子小屋が見えてきました。

素晴らしい景観を見に来る登山客とそれを迎え入れる山小屋。そこには直視しなければならないトイレの課題が確かにあると実感できた山旅でした。